駄文。

債権には、優先劣後という考え方がある。不動産は、法務局に登記することで第三者への対抗要件が備えられており、主には、表題、甲区(所有権など)、乙区(抵当権など)の三か所の登記がある。そのうち、乙区に付されるのが、抵当権であり、これの時期によって債権の優劣が決まる。公租公課(いわゆる税金)関係の債権については、乙区ではなく、甲区に付される差押登記が大半となる。差押登記は地方自治体(行政)が職権で行うことができ、国税徴収法に基づいて、徴収官は自力執行が認められ、唯一、裁判所の許可なく、差押え登記ができる存在となっている。

 

さて、前述したとおり、債権の優劣は登記時期に関わってくるが、行政による差押えが問題になってくる。例えば、平成元年に抵当権が設定されており、その債権残債額が4,000万円であり、物件の評価(または成約価格)が2,500万円のとき、売却をしても大半が債権者への弁済にあたり、なおかつ、債務が残る(債務超過)ことから、あとから差押えした行政に対しての弁済はできないことになる。こうしたことが想定されることから、国税徴収法第48条にて、無益な差押えの禁止が定めれており、本来は差押えができないことになっている。しかしながら、国税庁では、無益な差押えとなるかどうかは、その時点では、無益かどうかわからないので、緊急性を鑑み、差押えすることは是であるとされている。

 

差押え後については、同様に国税徴収法第79条にて、先立つ債権(この場合、抵当権債権者の残債)を処分価格が超える見込みが無くなった場合は、差押えを解除しなければならないと明記されている。しかしながら、不動産取引の現場では、この79条要件によっての解除がなされることは少なくなっている。と、いうのは、債権者は出しても、判子代程度だが、行政はあくまで全額回収が前提という主張をしてくるため、双方折り合わず、差押え解除ができないことから、売却が滞ってしまう。なぜ、行政が強気かというと、不動産業者または、買主がどうしても購入したい意向がある場合、別途、不足分を支払い、結果的に行政が全額を回収することができるからである。

 

税金が全額回収できるのであれば、良いではないかということかもしれないが、法律上は問題がたくさん存在する。

まず、行政に抵当権に差し置いて弁済する場合、偏頗弁済ととらえられる可能性がある。また、買主が負担する場合、二重価格が疑われ、債権者からすれば、本来回収できる債権額が少なくなってしまう、これまた偏頗弁済となってしまう。何より、債権者からすれば、抵当権に劣後する差押えにも関わらず、行政の回収率が100%となることは、抵当権設定の根本を覆すことになってしまう。また、例題の場合、競売になれば、当然に行政に一銭も入ってこないわけで、いくらかの判子代で応じれば、回収ができるにもかかわらず、差押えを解除しなかったがために、抵当権が実行され、競売となった場合は、税金の徴収業務を放棄しているとみなされるのではないだろうか。競売になることで、債権者も本来回収できる債権額を下回ってしまうこととなる可能性も高く、また、競売費用も負担しないといけないことから、行政が79条に基づく差押えを解除しないことは民業圧迫に相当するのではないかと思われる。